研究概要
当グループは三つのキーワード:
- 半導体:特に微細構造やグラフェンで実現される低次元系や,それらに強磁場を印加することで実現される量子ホール系
- 多体効果:特に電子間に働く長距離クーロン相互作用の効果
- 動的応答:基底状態だけでなく励起状態まで絡む物理現象.特に光学応答のスペクトル
のいずれか(または複数)が関わる現象を扱っている物性理論の研究室です.
上記のキーワードが絡む問題には研究領域を限定せずに幅広く取り組んでおり,物性物理学の複数領域に跨る問題に取り組むことも珍しくありません.その一例として電子正孔系の研究を挙げることができます.半導体に光を当てると,価電子帯から伝導帯へ電子が励起され,伝導帯に励起された電子(単に電子と呼ぶ)と,価電子帯に残った電子の抜け穴(正孔)ができ,それらはそれぞれ正および負電荷を持つ粒子として振る舞います.強い励起光を用いると,巨視的な数の電子と正孔が擬似的な熱平衡状態に達した系を実現できますが,この系は物性物理学の究極の研究対象になります.何故なら,あらゆる物質は巨視的な数の負電荷と正電荷を持つ粒子(電子と原子核)から構成されており,この系はそれを簡約化したものとみなせるからです.実際,この系の相図は「物性物理学の縮図」と言ってよいほど豊かで,まさに "More is different."*を体現するものになります.
※ "More is different." は P. W. Anderson: Science 177, 393 (1972) の表題で,当時の風潮だった行き過ぎた還元主義に対する警鐘.物質を構成する粒子が従う基本法則は数行の数式(シュレディンガー方程式)に過ぎないが,粒子数が巨視的になると基本法則から想像もつかない性質が現れるということを指す.話を将棋や碁に置き換えるとわかりやすい.ルール(基本法則)が単純だからといって,実際の盤上に現れる無限の可能性を見通せるわけではないのだ.
メンバー求む!
当グループでは,
- 2018年度より大阪大学物理学科・生物科学科生命理学コースの卒業研究配属
- 2019年度より学内外からの大学院生(大阪大学大学院理学研究科 物理学専攻 C2コース)
を受け入れています.卒業研究では勉強だけでなく研究の要素が入ってきます.さらに,大学院では学生の本分が勉強から研究に完全に切り替わります.研究では必ずしも勉強において要求されなかった能力が試されるため,この切り替わりを意識することが大変重要です.と言ってみても,本格的に研究をはじめていない人には,なかなかピンとこないでしょう.ナイーブな言い方をすると,当グループは,
- 研究への興味:当グループの研究内容に強い関心がある.
- 基礎学力:物理学科の必修科目(力学・電磁気学・量子力学・統計力学・物理数学)と,高校レベルの英語を身に着けている.
- なぜなに精神:新しい知識を得ると,同時に新しい疑問がどんどん湧いてくる.
- 価値判断:物理学の尺度で的確に物事の重要性や価値を評価できる.
- 知的好奇心と探究心:分からないことをそのままにしておけない.理解のためには時間や労力,試行錯誤を厭わない.
- 独創性:他人と違う視点から物事を考えることができる.
- 計画性:長期計画を立てて遂行できる.うまく行かなくても,適切な着地点を見つけて期日までに成果を出せる.
- 洞察力:一見複雑な問題から本質を見抜き,シンプルかつ直観的な描像を描ける.
- 無知の知:現時点の自分の能力を正しく知り,目標実現のために自分に欠けているものが何か具体的に把握している.さらに,それを身に着けるための将来展望を持っている.
- 冷静と情熱:物事を客観的・批判的に見つめる自分と,未知の問題に失敗を恐れず果敢に挑戦する自分を併せ持ち,必要に応じて両者を使い分けできる.